2010年6月29日火曜日

プレトリアの死闘 - 扉は開かず

日本サッカー界史上初のW杯ベスト8への挑戦。歴史の 扉はとてつもなく重く、そして、また、何の前触れもなく、突然、開かれるものです。運命のパラグアイ戦。ゲーム序盤、日本代表はいつになく積極的でした。封印していた闘莉王・中澤の攻め上がりに再三のミドルシュート。抑えようもない高揚感の表れか、得体の知れない重圧感の裏返しか。日本の時間が去った後は、潮の満ち引きのように、パラグアイの時間へ。ボクシングでいうならば、ジャブを繰り出しては、クリンチを繰り返すじりじりとした展開です。0-0での前半終了は岡田監督のプラン通り。扉がかすかに軋む音が聞こえました。後半の戦いは、静かなる死闘でした。息詰まる消耗戦。延長戦を見越したボディブローの打合いの感がありました。延長に入ってからの玉田投入は、岡田ジャパンの原点、4-4-2への回帰。あの決定機に玉田がシュートを叩きこんでいたら、岡田ジャパンは、長い回り道の末に、未踏の高みに辿り着いていたのですが・・・・。歴史の扉は開きませんでした。写真は、デンマーク戦での歓喜のシーンですが、残念ながら、その再現はなりませんでした。しかし、試合内容は、デンマーク戦での快勝を上回るものだったと思います。感動的なゲームでした。
日本代表はよくやりました。デンマーク戦の翌日、”Amazing Japan"の見出しが地元紙の一面を飾ったように、間違いなく世界を驚かせました。パラグアイ戦120分間、1秒たりとも途切れなかった集中力の持続は、サムライブルーの名前に恥じない日本の精神美を世界に示しました。4試合で2失点の守備力は、岡田ジャパンの到達点として、大いに評価されるべきでしょう。一方で、4試合で無得点試合2試合という結果は、攻撃力がいまだ世界基準に達しておらず、ベスト8への課題となっていることを示しています。岡田ジャパンの残した世界への自信という大きな資産を引き継ぎつつ、体感した世界との距離を縮めるべく、日本代表の挑戦は既に始まっています。

2010年6月28日月曜日

ジャブラニの魔力

サッカーに”if”はありませんが、あのランパードのループシュートが決まっていたら、恐らく試合の流れは大きく変わっていたと思います。ドイツのDF陣の位置からして、線審は、ゴールライン付近に立っていたはずです。しかも、ループシュートだったこともあり、シュートのスピードについていけたはずです。にもかかわらず、見逃してしまったのは、ジャブラニの魔力に惑わされたとしかいいようがありません。ハーフタイムの審判団のロッカールームからは、ビデオ映像に映し出されたその瞬間に"Oh! My God!"の悲鳴が響き渡ったそうです。奇しくも同国同士の対決、W杯イングランド大会でのイングランドの疑惑のゴールは、44年の時を経て、疑惑の判定で、代償を支払わされることとなりました。90年のイタリア大会、準決勝でドイツにPK戦の末敗れた当時のイングランド代表、ゲリー・リネカーは「サッカーはシンプルなスポーツ。22人の男たちが90分間ボールを追い回し、そして、最後にドイツ人が勝つ」と敗戦の弁を語っています。そして、リネカーの預言は、20年たった今でも生き続けていました。崩壊したイングランドの守備と圧倒的なドイツの攻撃力を考え合わせると、ifが起こっていたとしても、最後はドイツが勝っていたことでしょう。
さて、パラグアイ戦まで24時間。パラグアイは、解説者誰しもが弱点のないチームと分析しています。ある意味でやりにくいチームかもしれません。とにかく、じりじりとする我慢比べの神経戦の中、互いに勝機を窺う展開となるでしょう。繊細さを極限まで研ぎ澄まし、ジャブラニの魔力と気紛れを味方につけた方が最後に勝利をものにすると思います。俊輔の左足がジャブラニの奇跡を惹き起すことを期待。

2010年6月27日日曜日

オシムの警句

カメルーン戦の後、「新聞の一面がすべてホンダだったら以後の戦いは危ない」と警鐘を鳴らしたのは、オシムでしたが、当の本田
は、舞い上がることなく、デンマーク戦でも見事な活躍と献身的な動きで、日本の決勝トーナメント進出を支えました。デンマーク戦後、オシムは、さすがに本田を称賛したものの、個人的ゲームに走っている選手がいるとして、パラグアイ戦での苦戦を予言しています。南米の雄パラグアイは、個人技・組織力を兼ね備えた好チームです。日本の守備陣は、ラテンのリズムのドリブルに苦しめられると思います。それ以上に難敵なのが、精神力の持続でしょう。レギュラー陣の体力的疲労はピークを迎えていると思いますし、精神面での緊張の持続も限界にきていると思います。この局面を打開するのが、個人の力ですが、半面、個人プレーにより築き上げてきたチームの連携が崩れてしまう危険性があります。オシムが指摘しているのはこの点でしょう。2002年W杯で決勝トーナメント1回戦での敗退を経験しているチームキャプテン川口(写真)は「あの時の失敗は繰り返さない」と語っています。当時、グループリーグを突破したトルシエ監督の「我々は目的を達成した。これからの戦いはボーナスだ」という発言は、選手たちの張り詰めていた気持ちを切ってしまい、それが、トルコ戦のふがいない敗戦の一因となったと言われています。あの時の日本代表は、一見伸び伸びとプレーをしていたように見えましたが、自国開催のプレッシャーは相当なものだったと思います。トルシエの意図は、その緊張を解いてやろうとしたのでしょうが、弛緩した闘志は元には戻りませんでした。今回は、全く期待をされずに、比較的気楽に勝ち上がってきたというところがあり、また、パラグアイ組し易しという楽観ムードがないという点、精神面でのバランスが取り易い環境にあります。また、何よりもパラグアイに勝てば、代表選手の誰もが望んでいたスペインとの対戦が実現することになります。この期待感が選手達を後押ししてくれることを祈りたいと思います。1,200mの高地での戦いは、パラグアイの方が明らかに有利。また、120分間の戦いも覚悟しなければならないと思います。総力戦に持込み、ベンチメンバーも含めた「団結のチカラ」で、勝ち抜くことを願っています。

2010年6月26日土曜日

GL突破 - 団結のチカラ

度々コメントを書き込んで頂いている滋賀のKさんは、かつて実業団サッカーチームでプレーし、少年サッカー当時の松井を指導した方でもあります。コメントの中で、デンマーク戦の本田のFKは、GKがサイドネットに掛けていたタオルがいいターゲットになったと分析しています。確かに再三放映される映像をみると、ボールが美しい弧を描いた後タオルを揺らしています。また、シリコンバレーの中年サッカー小僧GNさんからもコメントを頂きました。W杯らしく、コメントも国際的になってきました。
さて、大方の予想を見事に裏切って、サムライブルーがグループリーグを突破しました。デンマークサポーターが敗戦後「日本チームには欧州のチームが失ってしまった献身の姿勢を感じた」と述べています。岡田監督もインタビューで「サッカーがチームスポーツであることを証明した」と語っています。まさに、団結のチカラが第一の勝因だと思います。個々の力が劣る日本は、個々の不足部分をカバーしあうことにより、総和としてのチームの力を高めています。それが献身、あるいは、チームスポーツという言葉で表現されているわけです。しかし、献身は、選手達に自らの本来の役割にプラスアルファの負担を強いるものであり、そのバランスがうまく機能すれば、団結のチカラになりますが、そのバランスが崩れたり、チームメートへの信頼感を失ってしまうと、本来の役割で100%の力を発揮できない状態に陥ってしまい、チームそのものを崩壊させてしまうという危険性を秘めています。本大会前の4連敗中は、まさに個々の選手が、チームへの信頼を失い、本来の役割を果たす前に、他の選手のカバーに逃げるという状態にあり、チームの体をなしていませんでした。前線からのプレス、低い位置まで戻っての守備、そして、DFの裏への飛び出しによる得点という過大なタスクを課せられたFWの機能不全と守備陣の不安定さに、選手達は不安感を持ち、そのカバーに追われていました。ただ、本大会に入り、ゼロトップにすることにより、高い位置でのプレスを捨て、ドイスボランチという名の実質3バックにより(阿部のポジションは昔のリベロでは?)、守備への不安が払拭されました。この岡田監督の破れかぶれと思われた新システムの採用が、見事に団結のチカラを結実させることになりました。団結のチカラを前回のブログで「青い翼」という言葉で表現しましたが、体内で暴れ、むしろ自らを傷つけていた翼が、本大会でようやく生えてきて、羽ばたくのに間に合ったというところでしょうか。試したことのないシステムを本番で採用するというギャンブルは決して褒められるべきものではないと思いますが、計算ずくのシステム変更であれば、素直に岡田監督の手腕を評価せざるを得ないでしょう。
日本が団結のチカラで勝ち抜いたのに対し、団結というベースすら失っていたフランス、イタリアといった強豪国が予選リーグで敗退しました。ただ、決勝トーナメントは、個人の卓越した力を融合し、チームの力に昇華させていく「組織力」というより次元の高いチカラの勝負になります。欧州の強豪チームは予選リーグ中に苦戦しながらも、この組織力を高め、チーム力を確実に上げてきます。また、今回の南米チームは組織力の高いチームばかりであり、パラグアイもそのひとつです。日本の団結のチカラが組織力にどこまで対抗できるのか、望むらくは、組織力の最高峰チームであるスペインとの対決で試して欲しいものです。

2010年6月25日金曜日

美しい勝利 - デンマーク戦

芸術的なカーブ

完璧なコース

素晴らしい連動

そして、
美しい勝利

昔、サポーターソングで「翼を下さい」という歌を歌って、祈りを捧げていましたが、この日本代表チームは、本大会直前のどこかの時点で、青い翼を手に入れたようです。

2010年6月23日水曜日

引分けの呪縛

このブログでお馴染みの新潟の反町姫からメールを頂きました。0泊4日の弾丸ツアーでオランダ戦(写真)に参戦してきたそうです。さすがにお疲れなのか、冒頭から「南アは遠かった・・・」と嘆息し、言葉少なめのメールでした。観客の7割はオランダサポだったそうで、さすがに、かつてはオランダの植民地だったという歴史を思い起こさせたとか。それでも、地元では反感も強く、地元のお兄ちゃんに「これからダッチと一戦交えるんだ」と言ったら、「おう、ダッチをひねりつぶせよ」と応援してくれたそうです。この辺りが、出場国のサポーターとしてW杯を観戦出来ることの醍醐味です。やっぱり、行けばよかったかと。カメルーン戦、心拍数を思いっきり上げて、スタジアムでブブゼラの音に囲まれて応援してみたかったですね。
さて、デンマーク戦。大方のサポーターが消化試合を予想し、弾丸ツアーも不人気で中止になってしまったという試合が、まさに運命の一戦になってしまいました。それも、引分けでGL突破という悩ましい展開。解説者、ジャーナリスト誰しもが「引分けを狙うな。勝ちに行け」と口を揃えますが、そうであれば、いっそ、引分けではダメという展開の方が悩まないものを。引分けを狙っても引分けできるだけの老獪さを日本代表が有していないのは判っていますが、客観的にデンマークよりも格下ということを考えると、このアドバンテージを最大限に活かして戦いに臨むにはどうしたらいいかをもっと議論すべきではないでしょうか。もっとも、南アでは、代表コーチングスタッフの大木さん、大熊さんが叡智を傾けて戦略を練っているとは思いますが。お互い引分けでGL突破が決まるウルグアイvsメキシコ戦では、本来1位突破を目指して攻めるべきメキシコよりもウルグアイの方が積極的に攻めて、1-0の勝利をおさめました。引分けでのGL突破という日本と同じ状況の韓国は、さすがにぎこちない立上りにつけこまれて1点を先行されながらも、追いつき、2-2の引分けに持ち込みました。様々な戦い方があります。デンマークを精神的に追いつめ、焦りを誘う為にも、前半はカメルーン戦のようにゲームをあえて潰す戦い方も必要でしょう。余力を残して、後半に臨み、後半タイムアップの瞬間まで日本の目指すサッカーを行ってくれれば、結果にはこだわらないことにしましょう。ゲーム途中で、パニックに陥ったり、ガス欠になってしまったり、引分けの呪縛に絡め取られて自滅してしまう愚だけは起こさないよう、戦略的な戦いを期待しています。遠藤の落着きがキーになりそうな気がします。また、3枚目のカードで送り込まれる選手にどのようなメッセージを託すのかも重要になります。と、色々想像するだけで心拍数が上がってしまうキックオフ28時間前です。

2010年6月21日月曜日

ポルトワイン・サッカー

ポルトガルのお酒といえばポルトワイン。ポルト港から出荷される特産の酒精強化ワインで、通常のワインよりアルコール度が高く、その独特のコクのある甘みと相まって極上の酔いを誘います。日本では、かつてはポートワインの名前で、赤玉ポートワインに代表される女性向けのワインというイメージが定着していましたが、ワインブームの中で本物のポルトワインの評価が高まり、今では、高級食後酒の確固たる地位を獲得しています。(代わりに、かつての赤玉ポートワインは、ポルトガル政府の抗議もあり、現在では赤玉スイートワインに商品名を変更しています。)
ポルトワインは、ポルトガルの宝石とも呼ばれていますが、サッカー界の10カラットダイヤモンド、C.ロナウドに率いられたポルトガル代表が、別格のポルトワイン・サッカーを披露してくれました。華麗なパスワークに加え、まるでラグビーのような見事なラインコントロール。甘~いゴールラッシュに舌鼓をうっているうちに、最後はしっかりと酔わされてしまいました。これこそ、21世紀サッカー。デコが戻って、勝ち上がっていって欲しいチームです。
フランスチームの崩壊、岡ちゃんの続投の可能性に言及した日本サッカー協会、などなど、書きたいことは色々ありますが、今日は、ポルトワインの心地良い酔いの中、久々に早めに床に就かせて頂きます。

2010年6月20日日曜日

オランダ戦 - PV@東京ドーム

パブリック・ビューイングでの観戦は、国立競技場での2002年のトルコ戦以来です。あの時の試合の展開は、三都主のバーをたたいたFK以外はほとんど記憶にありませんが、タイムアップのホイッスルの瞬間の虚脱感が体にまとわりついてくるような粉糠雨の感覚とともに今でも蘇ってきます。そんな訳で、今回は、雨の場合を想定して、東京ドームを観戦場所として選びました。今回も8年前同様、山登り・秘湯巡り仲間のN隊長との観戦です。
東京ドームには国立を上回る2万5千人のサポーターが集まりました(写真)が、オーロラビジョンを3分割した中央の画面は、内野席スタンドからは余りにも小さく、選手の識別が出来ないのは已むを得ないものの、ボールの動きを追えないのは致命的でした。N隊長は、携帯のワンセグ画面を見ながらの観戦という笑うに笑えない状況に。これも、雨を恐れた気持ちの弱さが招いたが故。気持ちで負けてはいけないということです。
オランダ戦。日本代表、気持ちで負けていませんでした。カメルーン戦での1勝が大きな自信となり、チームの急速な成熟がもたらされています。高い位置でのプレスと個人での仕掛け。カメルーン戦では見られなかった積極性です。松井はいいアクセントになっていました。大久保のキレ、文字通り、一皮むけた感があります。何よりも、0-2、0-3となるリスクを背負って、ゴールを奪いにいった岡田監督の強気の采配は驚きでした。玉田、岡崎のFW2人同時投入は、ジョホールバルでの城、呂比須の同時投入を彷彿とさせるものでした。(もっとも、森本ではなく、守備的(?)FWの岡崎投入というのには、多少、岡田監督の迷いも透けて見えましたが。)闘莉王に上がりを指示したのも、勝負師岡ちゃんの面目躍如といったところです。再三の決定的場面を川島が好守備でしのいで、結果的にオランダの追加点が入らなかったのは、岡田監督の運の強さといえます。ツキというのは、指揮官の最も重要な資質でもあります。カメルーン戦での守備的戦いから、オランダ戦で、やや攻撃にギアを入れた岡田ジャパン。トップギアにギアシフトして、イケイケ采配でデンマーク戦に臨むのか。「あくまで勝ちにいく」という姿勢は当然ながら、引分けでも予選リーグ突破というアドバンテージをどう戦術に織り込んでいくのかは、監督として逃げることのできない極めて重いテーマです。
ところで、東京ドームは、後半終了間際、熱狂に包まれ、至る所で、ハイタッチや抱き合う光景が見られました。長友がペナルティエリア内で倒れたシーンです。実況の声は歓声にかき消され、審判の姿だけが大写しになり、「PK、PK」の叫び声があがりました。コロコロPK派の遠藤コールと正統派俊輔コールが暫し交錯しました。N隊長のワンセグ観戦に象徴されるようにPVとしての一体感に欠けた東京ドームでしたが、その中で唯一、PVの臨場感を味あわせてくれた瞬間でした。

2010年6月17日木曜日

無敵艦隊発進 - 組織のチカラ

いよいよ無敵艦隊がW杯初制覇に向けて発進しました。スイスの堅牢な守備網の隙間を縫って、スペインのショートパスが小気味よく繋がります。そして、ボールの動きとともに、まるでCGをみるような見事な幾何学模様がスペイン選手達によってピッチ上に描かれていきます。バルセロナ生まれのジョアン・ミロのモビールを連想させる非対称ながらも絶妙なバランスと予測を美しく裏切る全体の動き。個々の高い技術と美意識の共通が、この魅惑的なサッカーを可能ならしめています。このスペイン代表の「組織のチカラ」が織りなす美しいサッカーは、誰しも魅了されるものであり、岡田監督が強く憧れるのも無理はありません。
昨日、岡田ジャパンの「団結のチカラ」について書かせて頂きましたが、これは「組織のチカラ」とは全く異なるものです。決して高くはない個々のチカラを最大限に引出し、チームとしてのチカラを高めていくのが「団結のチカラ」。完成された個々のチカラに核融合を起こさせ、チームのチカラを高めていくのが「組織のチカラ」。ジーコが日本の強みは組織力と定義して強化を図り、最後は挫折して、「個のチカラ」と言い出し、肝心の「団結のチカラ」を崩壊させてしまったのが、典型例ですが、岡田監督も同じ誤謬に陥りかけていました。陥っていたという方が正しいかもしれません。それが、いくつかの偶然が重なって、選手達に助けられ、期せずして「団結のチカラ」を獲得することが出来たわけです。日本代表の個々の偏差値を世界レベルにまで引き上げていく為には、まだ相当の時間と同時多発の奇跡を待たなければなりません。それまでは、「団結のチカラ」をしっかり自覚して、研ぎ澄ませながら、日本流サッカーを探っていくしかないでしょう。組織的サッカーとかコレクティブ・サッカーという言葉は暫くは床の間に飾って、眺めているだけにしましょう。
さて、スペインのまさかの敗戦ですが、「これがサッカー」という月並みな言葉で片付けてしまった方がいいでしょう。ただ、めったに起こるものではありません。それが、まだ取り返しのつく、予選リーグ初戦に出たということは、スペインにとって幸いだったと考えるのは楽観に過ぎるでしょうか。スペインにはここから不敗神話を再開し、8番目のW杯優勝国となって欲しいと願っています。それが、今大会が未来のサッカーに残し得る最高の遺産だと信じるからです。
ところで、韓国vsアルゼンチン戦。お互いの持ち味がうまく噛み合った好ゲームでした。途中までは韓国の選手がアルゼンチンの選手以上に楽しそうにサッカーをしていたのが、印象的でした。

2010年6月16日水曜日

岡田ジャパンが漂い着いたところ

カメルーン戦での勝利は世界中に衝撃を与えました。海外のメディアは「今大会初、且つ、最大級の番狂わせ」と伝えています。一方で、ゲーム内容については、「日本のプレーはよくなかったが、カメルーンよりはましだった」(オランダ・テレグラフ紙)、「なまぬるい試合」(BBC電子版)と手厳しく、オールドファンには懐かしいドイツの天才MFネッツアーは「今大会ワーストゲームであることを祈る」とコメントしています。世界に驚きを与えたのは、日本の勝利という結果であり、そのプレーは必ずしも称賛されてはいません。阿部がつぶやいたように「我々はまだ何も成し遂げてはいない」のです。カメルーン戦での勝利をもたらした守備的ゼロトップ布陣での戦いというのは、岡田ジャパンが漂流の末に流れ着いた南洋の無人島であり、決して目的地ではないということをもう一度認識する必要があります。「十五少年漂流記」という児童文学を昔読んだ人は多いと思います。無人島に漂着した15人の少年たちが数々の困難を乗り越えながら、逞しく成長していくという物語です。岡田ジャパンも、漂流中の荒波(マスコミ・サポーターからのバッシング)にもまれているうちに団結のチカラという得難い財産を手に入れたようです。より多くの献身を要求する守備的な戦いを最後まで貫けたのも、「団結のチカラ(=チームへの信頼+チームへのコミットメント)」がベースにあったからです。そして、この団結のチカラの強さこそ、日本が世界に誇れる武器なのです。岡田ジャパンは、遠回りして、ようやくオシムの言っていた「チームの日本化」の最初の寄港地に辿り着きました。だからこそ、負けが許されるオランダ戦では、その団結のチカラをベースに、目指していたプレッシング・パスサッカーがどこまで通用するのかを試して欲しいと思うのです。
写真は、本田をヒデ2世と持ち上げるトルシエ氏。一方で、オシムは「新聞の一面がすべて本田だったら以後の戦いは危ない」と警鐘を鳴らしていました。残念ながら、試合の翌日のみならず翌々日までスポーツ紙の1面は「本田」。ただ、本田自身、ヒーローはベンチも含めた全員であることをしっかりと自覚していましたし、サポーターの多くは、松井・大久保の守備面での涙ぐましいまでの貢献、阿部・長谷部・遠藤の限界を超えた運動量をしっかりと見ています。オシムの警句が杞憂であったことを、日本代表には証明して欲しいものです。

2010年6月15日火曜日

惑星直列の瞬間 - カメルーン戦

運命の瞬間、ワントップの本田と左ウイングの大久保との位置は逆になっていました。教科書通りのダイアゴナル・ラン (斜めに切れ込む動き)で大久保がDF2人を引き連れてセンターに切れ込み、松井がキックフェイントで間を作った瞬間、本田がステップ・バックでDFの裏側に消え、ピンポイントで松井のクロスが。その直前の遠藤から松井へのパスも含め、全てのピースがピタリとはまった、まさに惑星直列の瞬間でした。本田のゴールは、結果としての必然ではありますが、その過程は奇跡でもありました。奇跡を呼び込んだ本田は本人も言っているように「何かを持っている」のでしょう。本田と大久保の位置取りが逆だったら、きっと、次の瞬間、大久保が頭を抱え、日本列島各地で「オオクボ~」という怒声が湧きあがっていたことでしょう。
カメルーン戦を振り返ると、日本の現時点での世界での位置付けが浮き彫りになります。残り30秒を守り切れなかったドーハの悲劇、勝ちを目前にして6分間で3点の失点を喫してしまったドイツW杯豪州戦の苦い経験を経て、日本は1点を守り切るタフなメンタリティ、戦術を身につけつつあります。サッカー先進国の資格を得つつあるということです。一方で、メンバー全員が守備の意識を共有し、個々のチカラではなく、団結のチカラで相手を封じ込める泥臭いサッカーでしか世界とは戦えないという現実も明らかになりました。おそらく、残り30分間、日本の全選手がランナーズ・ハイにも似た「ゾーン」に入り込んでいたと思います。それが、あの高地での驚異的な持続的ランと集中力の維持を可能にしました。そして、その個々の選手のパフォーマンスを支えていたのが、「団結のチカラ」でした。カメルーン代表チームにはその点が決定的に欠けていました。エトーを右サイドで起用するというル・グエン監督の采配ミスにも助けられました。エトーのシュート数はわずか1本。CFのチュポモティングのシュートが5本。この数字が逆になっていたら、零封は難しかったと思います。
いずれにせよ、日本の最大の武器は「団結のチカラ」。しかし、それは、まだ守備のステージに留まっており、世界レベルで攻撃に応用するまでには至っていないということが、カメルーン戦ではっきりしました。デンマーク紙は、「退屈なサッカー。今大会一の凡戦」と酷評していますが、ゲームをつぶして勝つというのが今の日本のサッカー。ただ、これでは、本田も認めているように「オランダには勝てない」。それにカメルーン戦でのレギュラー陣の消耗は尋常ではないと思います。であれば、オランダ戦は思い切って選手を入替え、俊輔・憲剛の中村コンビを軸に目指してきたパス・サッカーで対抗してみてはどうでしょうか。団結のチカラを手に入れた今の日本代表であれば、大敗はないと思います。阿部が「僕たちはまだ何も成し遂げていない。何も手に入れていない」とインタビューに応えています。デンマーク戦で、再度、惑星直列の奇跡を呼び起こして、グループリーグ突破を果たす為にも、オランダ戦での奇策も必要では?

2010年6月14日月曜日

E組開幕 - 初戦カメルーン戦

とうとう、この日が来てしまいました。金子達仁氏の「日本代表、木端微塵惨敗説」に与(くみ)する者としては、今更、やきもきするのもおかしい話ですが、ついつい、げんを担いで、お昼は森林インストラクターN隊長と日韓W杯の運営にも関わったバロンSさんと、恒例の「トンカツ」ランチ@とんかつ富士を企画しました(ちなみに夕飯はカツ丼)。ところが、ちょっとした行き違いで、お二人とは合流できず、一人寂しく、「さぼてん」で大奮発のイベリコ豚のトンカツをつつく羽目に。「スペインも食うぞ」といきがってみるのも、何か虚しさがありました。
さて、E組。オランダのスピードをデンマークが体を張って止める攻防は見応えがありましたが、オランダのスピードは異次元の速さ。しかもペース配分しながら、そのスピードを90分間持続するという大人のサッカーはさすがです。相手のオウンゴールのみでしっかり勝ち切ってしまう(オマケの2点目が入りましたが)というゲーム展開にも格の違いを感じさせました。刀を抜かずして、相手を屈せしめてしまう達人の技というべきでしょうか。1強3弱のグループでは、最終戦で、既に突破を決めているであろうオランダとあたるカメルーンが組合せ的には有利です。木端微塵論を唱えながらも、オランダのオマケの2点目に、つい、得失点差を思い浮かべてしまう悲しい性(さが)に苦笑しながら迎える我が日本代表の初戦。本田のワントップといわれていますが、サッカージャーナリスト杉山茂樹氏が半ば捨て鉢に提唱していたゼロトップの布陣です。スリーボランチにゼロトップ。混乱の極みの岡田監督が期待のみで組んだ破れかぶれ布陣。岡田ジャパンの2年半の積重ねはどこに行ってしまったのか。これが岡田監督の目指していたサッカーなのか。前半は0-0でもいいというゲームプラン通り引いて守る日本は、ボールを蹴り出しては、ルーズボールを拾われて、カウンターを受ける展開。無闇に高い位置からのチェーシングして体力を消耗する戦い方ではないものの、この押され気味の展開は、後でボディブローのようにきいてくるはずです。薄い空気のせいか、こころなし日本選手が口を開けて息をしているのが気になります。と書いているところで、松井のキックフェイントの切返しからのクロスに本田が落ち着いてシュート。ゴォ~ル!!!!!結果的に、岡田監督の起用がピタリと当った感じですが、これも、ハエのようにボールに群がり、カメルーンにサッカーをさせなかった守備の賜物。ただ、この集中力を残り45分持続するのは、不可能。とにかく、早い時間帯でカウンターからの2点目を取れるかが、勝負の分れ目。岡田監督の選手交替の采配に注目。と、書いたところで、守備的FW2枚投入という岡田監督ならではの采配で最後まで守り切って、岡田監督してやったりの快心のゲームでした。素直にうれしいです。トンカツのお陰です。オランダ戦は、東京ドームでのパブリックビューイングの前に目黒の「とんき」で。デンマーク戦は、霊験あらたかな「とんかつ富士」で。

2010年6月13日日曜日

サミュエル・エトー - アフリカを背負う男

南アW杯公式ポスターに描かれたボールを見つめる選手のモデルはカメルーン代表のサミュエル・エトー選手だということです。アフリカを代表する選手として選定されました。カメルーン戦を明日に控え、NHKでエトー選手の特番(サミュエル・エトー アフリカを背負う男)が組まれました。以下はそのダイジェスト版です。
カメルーンの貧民街から見出され、レアルマドリードの下部組織の一員となったエトーを待ちうけていたのは、人種差別の壁でした。十分なプレーの機会も与えられず、失意のままマジョルカに移ったエトーは、当初、孤独の中でいら立ち、ラフプレーを連発していました。そんなエトーを諭し、「ゴールを決めて自らの存在を認めさせていけ」と励ましたのは、名将アルゴネスでした。人間的にも成長したエトーは、その後、バルセロナに移籍し、スーパースターへの階段を駆け上がっていきます。しかし、ここでも、人種差別の洗礼を受けることになります。2006年2月サラゴサ戦で、サラゴサ・サポーターから、エトーに対し、悪質な人種差別的な野次が飛ばされました。エトーは抗議の為に、ゲーム中にも拘わらず、ピッチを去ろうとします。審判や同僚がエトーを押しとどめようとする中、ブラジル人のロナウジージョがエトーと行動を共にしようとします。そこに、対戦相手の黒人選手が駆け寄り、「君の行為はとても勇敢だ。しかし、ゴールを決めることで、黒人の強さを認めさせるべきだ」と諭します。ピッチに戻ったエトーは、それから数分後、右サイドを駆け上がり、見事なクロスでゴールを演出しました。
エトーの設立したサッカーアカデミーからエトー同様スペインのマジョルカに移った17歳の少年オリンガに、エトーはこう語りかけています。「ゴールは愛だ。サッカーはゴールを決めるスポーツだ。白人の中でゴールを決めることはとても価値のあることだ。」
貧民街からの脱出を目指して、家族の生活を背負って故郷を旅立ったエトーは、その後カメルーンを背負い(2006年W杯アフリカ予選最終戦でPKを外し、ドイツへの道を閉ざしてしまったエトーは、国民の失望を思ってピッチ上で号泣します。また、カメルーンでは「エトーは、我々の父であり、母であり、そして、半分神である」と言われています)、今ではアフリカを背負っています。
「あなたにとってサッカーとは何ですか?」との問いに、エトーは「義務だ」と答えています。こんなエトーが率いる不屈のライオンに対して、飽食の時代を過ごしてきたサムライ・ブルーがどう戦うというのでしょうか。NHKも罪な番組を制作したものです。運命のキックオフまであと24時間。

2010年6月12日土曜日

南アからのひどく悲しいレポート

朝日新聞に南アからのひどく悲しいレポートが掲載されていました。カメルーンに5対0で負けたとしても、これ程悲しい想いにはならないと思います。キャンプ地ジョージに日本代表が到着した際の話です。空港にジョージの市民が集まり、小旗を片手に日本代表の到着を待っていました。到着が3時間以上も遅れたにもかかわらず、市民たちは我慢強く待ち続けていたということです。ところが、到着した日本代表は、飛行機を降りるや一目散にバスに乗り込み、集まった市民を置き去りにして行ってしまったそうです。市民たちには、歓迎の為に用意していた歌や音楽を披露する時間さえ、与えられませんでした。岡田監督は市民たちに目もくれず、闘莉王は耳にイヤホンを当てたまま。本来だったら、監督が選手を押しとどめて整列させるべきでしょう。視野狭窄症に陥ってしまった今の岡田監督にそれが望めないならば、チームキャプテンの川口かサッカー協会の随員が監督に代わって然るべく対応すべきです。ジョージの街は、時ならぬ日本語ブームで、市内には日本語の表示が溢れています。(ホテルの「欠員」のサイン(=Vacancyの誤訳)はご愛敬ですが。)そんな市民のホスピタリティに応えられなかった日本代表は、寂しい限りです。W杯という世界の祭典に参加するサッカー日本代表は、日本人代表でもあるのです。日本人の誇りをもって、好感と尊敬の念を得られるようなピッチ外での(望むらくは、ピッチ内でも)振る舞いを期待したいものです。出来るならば、8年の時を経ても未だ続いている中津江村とカメルーンのような関係をジョージの町と築いてくれることを祈るのみです。
ところで、韓国は、アジア代表として見事なサッカーを繰り広げてくれました。韓国の快進撃を併せて祈りたいと思います。

2010年6月11日金曜日

幸福の女神には前髪しかない

いよいよW杯が開幕しました。NHK中継の現地ゲストは中田英寿氏。語りの途中に入る間投詞には、人柄が表れるものですが、中田の口癖は、「当然、・・・」でした。昔、「要するに」を連発する人がいましたが、話の中身は全然「要するに」になっていませんでした。巨人の長嶋元監督の口癖は「いわゆるひとつの・・・」そして「メイクドラマ」などの和製英語。思いがあふれて言葉が見つからない多感な人柄を表わしていました。中田の「当然」の後には、極めて論理的で明確な言葉が続きました。そして、「やっぱ」や「やっぱし」が幅を利かす中で、律儀に「やはり」という言葉使いをしていたのにも好感が持てました。将来は、サッカー協会の重責を担って欲しい人材です。
「今回は、南アには行かないんですか」という質問をよく頂きます。これまで現地に応援に馳せ参じたのは、現地での応援が最後のひと押しになって、日本代表がきっと勝てる、行かないで負けたら悔いが残るという思いからでした。但し、今回ばかりは、どう応援の声を張り上げようが、どうしようもないという諦観があります。また、現地応援の醍醐味は、何といっても他国のサポーターとの交流にありますが、今回は町をふらついて、他国のサポーターと乾杯したり、応援グッズの交換をしたりすることが、治安の関係で出来そうもないというのも、一因になっています。「どうしたら日本代表は勝てるのか」という質問も頂きますが、「幸運を祈るしかない」というのが答えだと思います。相手が決定機を5回位とPKを1回はずし、なお且つオウンゴールを1つ献上してくれれば、1-0で勝てるかもしれません。昨日、若くして会社経営を行っている女性お二人とお酒を飲む機会がありました。話題は「幸運」について。お一人は、「自分は強運な家系に生まれつき、極めてラッキーな人生を送っている。先日も商店街の福引で1等賞を引き当てた。」と、確かにすべての幸運を引き寄せてしまうような磁力の強い笑顔で仰っていました。もうお一人の女性は、「幸運は、引き寄せ、つかみ取るもの」と断言します。そして、お二人の共通意見は、「幸運は幸運を呼び、偏在する。」というものでした。サッカージャーナリストの大住さんは、「禍福はあざなえる縄の如し」という諺を引用して、「悪運は出尽くした。カメルーン戦では、ありったけの幸運を1試合に集めて、2-1で勝利」という、らしくない、楽観予想をサッカーマガジン誌上で展開しています。不運は幸運で埋め合わされるのか、不運は更なる不運を呼ぶのか、意見が分かれるところです。「幸運の女神には前髪しかない」というイタリアの諺があります。幸運の女神が通り過ぎて、後ろ姿になってからでは遅すぎる、という意味です。日本代表が勝つためには、ゴール近くで、とにかく前を向いて、幸運の女神が横切る瞬間の前髪をつかむしかありません。開幕戦後半44分、気紛れなジャブラニ(W杯公式球)はポストを叩き、地元南アはあとわずかなところで女神の前髪をつかみ損ねました。

2010年6月8日火曜日

地政学的W杯優勝国予想

写真は1ヶ月前のヨハネスブルグ・サッカーシティスタジアムです。急ピッチで工事が進められており、そのインセンティブなのか、建設作業員にはチケット購入の優先権が与えられたそうです。写真の2人は幸運にも夢のチケットを手に出来たのでしょうか。
「暇にあかせて久々にブログを拝見させて頂きました」と冒頭から失礼なメールを米国シリコンバレーから頂きました。シリコンバレー駐在の永遠のサッカー小僧Nさんは、地政学的W杯分析と称して、「時差がないということではヨーロッパ勢、気候が一緒の南半球ということでは南米勢、高地ということではスイス・メキシコ・チリといった山岳国。3つの地政学的な条件のどれにも当てはまらないのが日本で、2つ以上の条件に合致するのがスイスとチリ」と大胆予想を繰り広げています。スイスとチリは予選リーグは同じH組で、2チームが予選突破すれば、決勝まで対戦することはなく、両国の決勝はあり得ない話ではありません。もっとも、同グループのスペインが予選敗退というのが条件になりますが・・・。
Nさんの地政学的3要素に歴史学的分析を加えると、①2時間以上の時差のある地域でもブラジル(1958年スウェーデン、1970年メキシコ、1994年米国、2002年日韓)とアルゼンチン(1986年メキシコ)は優勝しています、②南半球開催のW杯で優勝しているのは確かに南米勢のみ、③高地開催のW杯での優勝国はブラジル(開催地チリ、メキシコ)、アルゼンチン(開催地メキシコ)、ドイツ(開催地スイス)。ということで、優勝候補が断然ブラジル、対抗馬はアルゼンチンという予想となります。といっても、戦前予想の当った例(ためし)無し。最強のチームが優勝するのではなく、優勝したチームが最強なのです。 W杯開幕まで、72時間。

2010年6月7日月曜日

日本代表に必要なもの

日本のアニメのうち海外で有名なのは、「ポケモン」、「ドラゴンボール」、そして「キャプテン翼」でしょう。漫画を読んでいた訳ではないので、中身はほとんど知らないといった方が正しいのですが、舞台の南葛市が旧清水市ということもあり、大空翼の笑顔が小野伸二にダブったりして、気になる漫画ではあります。その小野伸二が元気です。伸二の活躍に引っ張られて、エスパルスがJ1首位を快走しています。ブラジル流サッカーをベースとする清水のチームでありながら、澤登や伊東に代表されるように、どちらかというとストイックなサッカーを展開してきたエスパルスに「サッカーの楽しさ」というエキスを注入したのが、伸二の最大の功績であり、エスパルス好調の原因ではないかと思います。思い起こすと、99年ワールドユース準優勝時のシンジのチームは、あのトルシエの重圧の下でも、本当に楽しそうにサッカーをしていました。本山がドリブルをしかけ、高原がゴール前に飛びこむ。小笠原が伸二とクロスし、中田浩二がオーバーラップする。それぞれがキラキラと輝いていました。その伸二のチームは、2000年シドニー五輪では、肝心の伸二を負傷の為に欠き、本来、円熟したチームとして臨むはずだった2006年ドイツW杯は、メンバーのほとんどがベンチを余儀なくされ、予選リーグ敗退後、伸二をして、「俺たちのチームだったら、結果は変わっていたかもしれない」とつぶやかせました。
今更、伸二のチームを望むべくもありませんし、伸二の代表落選は已むを得ないかもしれません。しかし、今、代表に必要なのは、伸二の「明るさ」であり、「サッカーを楽しむ心」ではないでしょうか。今の代表は、どこかで、「サッカーを楽しむ」ことを忘れてしまいました。その余裕すら失ってしまったというべきかもしれません。今、開き直って出来ることは、チームコンセプトを徹底したり、90分間プレスをかけ続ける体力をつけることではなく、「サッカーを楽しむ心」を取り戻すことではないでしょうか。昨年の夏頃までは、それが出来ていたはずです。悲愴感からは何も生まれません。「サッカーを楽しむ心」が究極まで高まり、恍惚に達した時、「ゾーン」に入り、信じられないプレーが生み出されるものなのです。
W杯の舞台で、日本代表が「サッカーを楽しみながら」のプレーを繰り広げ、「キャプテン翼」を実演した時こそ、世界にサプライズと感嘆を惹き起すことが出来ると思うのです。カメルーン戦まで、あと1週間。

2010年6月6日日曜日

対談 中田英寿×本田圭佑

テレビ朝日で放映された中田と本田の対談は驚きでした。プロの進行役によるサッカー選手の対談でも、これだけ深い内容のものは見たことも読んだこともありません。中田の知性と本田の意外な勘の良さが成し遂げた奇跡ともいえるかもしれません。それにしても、NHKの日本サッカー50年史といい、今回のW杯特番の質の高さは特筆ものです。日本のサッカー文化も成熟してきました。W杯本戦での惨敗、あるいは、今後のアジア予選での敗退を冷静に受入れられる下地は出来あがっているのかもしれません。
前置きが長くなりましたが、対談内容です。 まずは、中田が、海外移籍してからの本田のプレースタイルの変化に、水を向けます。グランパス時代のパサーからVVVのゴールゲッターに変貌した過程を、「海外のチームではMFはパスでは評価されない。ゴールを決めて認めさせなければ、練習でパスさえこない」と説明します。その姿はペルージャ時代の中田と重なります。初戦のユベントス戦での2ゴールの鮮烈デビューが、中田にペルージャでの確固たる地位を築かせ、シーズン10ゴールが、弱冠21歳の中田を世界のNAKATAに押し上げました。翌シーズン以降のゴール数が最多で4ゴールであることを考えると、中田の緻密な計画とそれを実現せしめた執念に改めて驚かされます。恐らくパサーとしては中田以上であった名波が、わずか1シーズンでセリアAを去らざるをえなかったことと対照をなしています。(デビュー戦のウディネーゼ戦であのポストを叩いたシュートがあと5センチ内側にずれていたら名波のサッカー人生は大きく変わっていたかもしれませんが・・・。)
次に飛び出したのは、本田の見事なスルーパス。「中田さんの常に前を向きながらのプレーは、どうしたら出来るんですか?」中田が微笑みながら答えます。「守備を適度にサボって、ボランチが必ずボールを止めると信じながら、すぐに前を向けるように半身で待っていた。」更に、「ペルージャでは、ボランチがボールを奪取するとすぐボクを見てくれたし、98年の代表チームでは、山口さんや名波さんがこれをやってくれた。」と述懐します。「98年の代表チームは自分がやりたいプレーをやれたし、やらしてくれた。それが、だんだんと、自分が周りを活かさなければならない立場になり、2006年の代表では、自分のやりたいプレーを封印して、周りを活かすプレーに徹さざるをえなかった。一番つらい終わり方だった。」とは、「中田さんは孤独だっただろうなぁと思うのですが、ご自身はどう思っていたのですか」という掟破りの本田のキラーパスへの中田のリターンパスです。さすがに苦笑いを浮かべていました。中田は続けます。「本田君には、思い切りわがままになって自分のプレーを貫いて欲しい。」この元祖キラーパスに本田が追いつけるのか。ただし、今の代表チームには、山口も名波もいません。

2010年6月4日金曜日

ウサギとカメ - コートジボアール戦

日本代表戦の後にブログを書かなければならないというのも、結構なプレッシャーです。特にここ数試合、内容の無いゲームを見せられるとなおさらです。やむなく、W杯本戦まで取っておきたかったネタを披露させて頂くことにします。98年フランスW杯初戦アルゼンチン戦前のロッカールームで、岡田監督は、井上靖の詩集から「人生」という詩を引用して、「地球は何億年もあり続け、人類の歴史はそのうち数千年、人生なんて80年に過ぎない。だったらサッカーの1試合90分なんて短いものだ。その一瞬にかけてみろ。」と言って、選手を送り出したそうです。監督としては、かなり気の利いたことを言ったつもりが、選手の一人だった岡野雅行は、「監督が何か哲学的なことを言っている。やっぱりスゲーな」という印象しか残っていないと回顧しています。あれから12年の年月を経て、岡田監督が今回引用したのは、「ウサギとカメ」でした。「カメが何故ウサギに勝ったのか。それは、ウサギが相手を見ていたのに、カメはひたすらゴールを見て走っていたからだ。」井上靖からイソップ童話への変転は、岡田監督の指導者としての成長なのか、代表世代の幼児化を反映したものなのか、微妙ではあります。
岡田ジャパンは、皮肉にも、ゴールをみているどころか、首をすくめたままのカメになってしまいました。イングランドの名前に怯え、コートジボアールの身体能力に怯え、ゴールどころか前さえも向けない状態です。インターセプトを恐れるあまりショートパスの交換のみの安全・安心・コンパクトな(!)攻め。たまのロングパスもDF網を大きく超え、味方が追いつくはずもない「ほとんどクリア」パス。これだけリスクを冒さない、戦う姿勢を見せない姿をW杯本戦で晒すとしたら、たとえ、幸運にも3戦スコアレスドローで勝ち点3を獲得したとしても、日本サッカーにとって何の意味もありません。3戦とも5-0の惨敗の勝ち点ゼロでも結構。とにかく、サッカー(=ゴールを目指すゲーム)をしてきて欲しい。岡田監督は、コートジボアール戦後のインタビューで「戦える選手、戦えない選手がはっきりした」と言っていましたが、まずは監督自身が戦う姿勢を見せることが必要でしょう。

2010年6月2日水曜日

和風サッカー談議@新宿アリラン

クールビズ初日の6月1日、新宿西口焼き肉アリラン(写真)にて、W杯本戦を展望するサッカー談議を開催いたしました。参加者は、常連のスーパー・ハセ、スーパー・ルーニー、少年サッカーコーチに、今回初参加のダイヤモンドサッカーさん。幹事のスーパー・オーウェンは風邪の為、無念の欠場。
まずは、日本代表の戦績予想。名波の3敗惨敗予想に対し、1勝1敗1 分、1勝2敗と、予想が分かれました。とにかく、カメルーン戦で勝ち点3を奪い、第3戦まで夢をつないで欲しいという意見が大勢。 但し、日本代表の守備力と対戦各国のFWの決定力を考え合わせると、各試合最低1点の失点は覚悟しなければなりません。その中で勝ち点3以上を獲得していく為には、2点乃至3点のゴールをあげる必要があります。FKからの1点は想像できますが、それ以外の得点のイメージがどうしても湧いてこないというのが、共通した意見。つまり、1勝予想は、ウェットな日本人としての期待がこもった和風予想で、この辺りが、金子・木崎のドライな欧州流予想と異なるところです。
次に優勝国予想。何とアルゼンチンとイングランド優勝予想が優勢。オランダを推す声は、オランダが予選グループ1位抜けした場合、低地での対戦が続くというマニアックな分析も。サッカー検定4級の名波は、「3,964の法則」を披歴して、ドイツ優勝の可能性を示唆しながらも、期待を込めてスペインの優勝を予想。(※3,964の法則:W杯で優勝した年を足すと3,964になるという法則。西ドイツ(1974+1990)、アルゼンチン(1978+1986)、ブラジル(1970+1994)。2002年W杯決勝戦直前のミーティングでブラジル代表監督はこの法則に言及し(1962+2002)、自国の優勝を予言し、選手を鼓舞した。その時の直筆ホワイトボードがサッカーミュージアムに保存されている。この法則からすると、2010年の優勝国は、3964-2010=1954年優勝国のドイツ。ちなみに2014年のブラジル開催W杯の優勝国はウルグアイということになり、マラカナンの悲劇が繰り返されることとなる。)また、前年のバロンドール輩出国は優勝できないということで、アルゼンチンの優勝は消え、ユーロ優勝国はW杯で苦戦するというジンクスでスペインも消え、コンフェデ優勝国は本大会で優勝できないとのジンクスでブラジルも消えるとなると、優勝国は、ドイツ、オランダ、イングランドでしょうか。
話は、W杯後に及びます。ジーコ監督以降若手を育ててこなかったツケがここにきて大きく噴き出しています。名波が、金子セミナーで仕入れてきた「サッカー協会の育成システム以降飛び抜けた選手が出てこなくなった」との話を披露すると、サッカーコーチさんが「最近の子供は塾に通うようにサッカーチームにやってくる」と嘆息をつきます。若い世代を育てるのに定評のある元アルゼンチン代表監督ペケルマンがいいのではということで一致。現在、メキシコのクラブチーム監督ということで、戦術的にも日本代表に馴染むのではないかと。
開始3時間を過ぎた辺りで、風邪気味で体調不良の名波と長谷部の足(舌)が止まり、リタイア。後半戦は、W杯終了後の7月に持ちこされました。
(前回のブログに滋賀の師匠Kさんとスーパー・ハセさんから久々のコメントを頂きました。W杯を皆んなで楽しむ為に、このブログがサポーターのフォーラム替わりになればと思います。コメントの投稿は、各ブログの下のコメント・アイコンをクリックし、書き込んで下さい。個人情報の選択欄は、名前を選んでハンドルネームを書き込むか、匿名でも結構です。)