雲上の湯は、山小屋から歩いて5分。河原に湯船をこしらえ、腰を下ろすための板をわたしただけの造作。囲いもなければ、勿論、屋根も無く、これぞ野天風呂。野趣あふれる、小さいながらも豪快な秘湯です。明け方に起き出して、ヘッドランプをつけて朝霧漂う山道を登ります。辿り着いた野天風呂に冷えた体の肩までつかり、見上げれば、東雲の空。日本人に生まれて良かったと思う瞬間です。
今回もシェフ兼シェルパ(略してシェフパ)Tが腕を揮い、1日目の昼食は春菊がアクセントの「牛しゃぶ」、2日目はトマトソースとクリームソースの「紅白スパゲッティ」。大自然の中で味わうミスマッチな贅沢は、格別です。1食ごとに軽くなるリュックにシャフパTの白い歯がこぼれます。N隊長は、雲海に浮かぶ日本アルプスの山並みを遠く望んで煙草をふかしながら、「幸せを感じる・・・」とつぶやきます。眺望を楽しむ余裕も無く、こと山の風景に関しては若干感受性に欠ける私は、頂上に向かって刻みこむような登りの1歩、1歩、下りの岩場にバランスを取りながら慎重に踏みしめる1歩、1歩の歩みに、何故か苦痛よりも充実感を覚えるようになりました。「生きていくってことは、こんな感じなのかなぁ」と。
晴天に恵まれた雲上の地から下界に降りると、そこは雨でした。指先から立ち上る硫黄の残り香がくすんだ雨の香りに消されていきます。雲上でのひたすらたおやかで恵みに満ちた刻(とき)に感謝。
晴天に恵まれた雲上の地から下界に降りると、そこは雨でした。指先から立ち上る硫黄の残り香がくすんだ雨の香りに消されていきます。雲上でのひたすらたおやかで恵みに満ちた刻(とき)に感謝。