2013年6月30日日曜日

コンフェデレーション杯2013 ‐ 見えてきたもの

コンフェデレーション杯2013は、3戦全敗という日本代表にとって極めて厳しい現実をつきつけられた大会となってしまいました。W杯アジア最終予選を最終戦を残して予選突破を決めたとはいえ、予選終盤の戦いぶりは決してアジアチャンピオンに相応しいものではありませんでした。「このままでは世界とは戦えない」という不安を抱えてのブラジルへの旅立ちでした。コンフェデ杯3戦で9失点の守備では、世界では勝ち点を奪うことは出来ません。得点力を考えると、とにかく、失点を1点以内に抑えることが、まず挑むべき課題でしょう。一方で、4得点には一縷の光明を見出すことが出来ます。日本のバスサッカーが世界のDF陣を切り裂いた瞬間もありました。第三の動きの運動量を増やし、連動性を高めていけば、世界の脅威となるポテンシャルは秘めています。最大の問題点は、イタリア戦、メキシコ戦で露呈した試合運びの稚拙さでしょう。高い温度と湿度、過密スケジュールという過酷な試合環境の中で、一本調子の常にフルスロットルの戦い方では、どこかでエアポケットが出来てしまうことは避けられません。日本代表の失点は、いずれもそのエアポケットをつかれたものです。
マリーシアというポルトガル語があります。もともと「ずる賢い」という意味なので、日本では、審判の死角で反則するとか、反則スレスレの行為を指すなど誤用されていますが、正確には、試合での駆引きや臨機応変な試合運びといった知的な戦い方を意味するものです。このマリーシアは豊富な人生経験や試合経験を通じて得られるものとされています。外国人監督から「日本代表に欠けているものは経験値」という言葉がよく聞かれますが、強豪との真剣勝負を通じてのマリーシアが身についていないということなのです。この歳になって判るようになったのですが、風を読み、潮目を感じる能力は、座学や書物から学ぶことは出来ず、経験を通じてのみ身に付くものです。この能力があってこそ、流れに乗り、流れを引き寄せることが出来ます。あるいは、一瞬の「機」を見極めることが出来ます。ただ、サッカーで厄介なのは、11人がこの感覚を瞬時に共有しなければならないということです。コンフェデ杯での日本代表には、明らかにこの部分が欠けていました。本田圭佑は、W杯優勝を口にしていますが、その為には、本田のいう個の成長とともに、着実に経験値を積み重ねてのチームとしての成熟が必要です。まだまだ、長い目で見る必要があるのかもしれません。

2013年6月17日月曜日

途切れさせてはいけないもの

W杯アジア予選最終戦イラク戦。コンフェデレーション杯初戦ブラジル戦。そして、Jリーグ東日本大震災復興支援スペシャルマッチ。本当に慌ただしくも至福の1週間でした。
イラク戦は勝ったことだけが全て。本来の目的のサブの選手を試すという点では不十分。且つ、起用されたサブの選手はアピール出来ず。W杯本戦に向けた準備の第一歩としては、何となく消化してしまった試合となってしまい、満足なものではありませんでした。その結果が、コンフェデレーション杯初戦。世界とアジアの差をまざまざと見せつけられた惨敗でした。「個」のレベルの違いは明らか。それに加え、ここぞという時のチームとしてのスピードはもはや異次元。長友は「中学生とプロのゲーム」と揶揄していました。この惨敗を本戦で繰り返すわけにはいきません。何をすべきか?本田の言うように「個の向上」はもちろん必須ですが、これを前面に押し出すのは危険です。「個」の差を前提として、どう戦うのかの戦略を練るべきでしょう。いわゆる「自分たちのサッカー」をアジア仕様から世界仕様に設計変更せざるを得ないのが、現実の姿であり、これから1年の課題だと思います。
さて、Jリーグ東日本大震災復興支援スペシャルマッチ。昨年に続き2回目の開催となります。写真はキックオフ前の黙祷のシーンです。被災地にゆかりのある選手で構成されたTeam As OneがJリーグ選抜を下し、昨年に続き勝利を飾りました。一旦退いた闘莉王がFWとして交代で出てくるなど、選手自身も楽しみ、エンターテイメントの要素も散りばめられたマッチでしたが、反面、勝ちにこだわった熱い気持ちも感じられ、被災地に勇気を与えるイベントに相応しいゲームでした。スタジアムでは、被災地の小学校のグラウンドに簡易照明を設置するための募金が行われていました。小学生たちが日没後もサッカーを楽しめるようにという目的です。募金の使途としては、他に優先順位の高いものもあろうかと思いますが、サッカーファンが是非してあげたいことなのです。それぞれが、その立場と見方で、出来ることを続けていくことが大事なのだと思います。日本代表の「個」と「組織力」の向上。震災復興。それぞれに終わりのない長い道のりですが、一歩、一歩、足を踏み出し、歩みを継続していくことこそが、重要なのではないでしょうか。決して途切れさせてはいけない。

2013年6月9日日曜日

Oの悲劇

5月23日国立競技場。藤田俊哉送別試合。至福の時間でした。現役時代いつもTV画面のどこかに顔を見せていた俊哉が、現役さながらの運動量で走り回り、ウルトラマン並みに3分間限定でピッチに立ったゴンが、予告通り、俊哉にアシスト。(「俊哉にはいつもアシストしてもらっていたので、最後は俊哉のゴールをアシストしたい」試合前のインタビュー。)ハーフタイムのカズとのパス練習をはじめ、ゲーム中もカズにボールを集めるなど、妙にカズに気を使っていたヒデなど、見所満載の本当に楽しいゲームでした。その中でも、クライマックスは10数年ぶりのN-Box(名波を中心にMF5人がサイコロの5の目状に配置されたジュビロ磐田最盛期の布陣。週刊サッカーマガジンが名波のイニシャルから命名)。福西が名波を追い越し、俊哉が並走。福西の抜けたスペースを服部がカバー。名波を中心に幾何学模様を描くような見事な流動性は健在。もっとも、服部はかなり体が重そうでしたが。そして、寂しかったのは、N-Boxの一角の奥大介がいなかったこと。すね当てが出るほどソックスを下げて、チョコチョコ走り回っていた奥は、紳士の多いジュビロのプレーヤーの中で珍しいトラブルメーカーでした。レフリーに注意されてソックスを一旦は上げるものの、すぐにずり下がり、再度注意されては、レフリーに逆に食ってかかる。小柄で童顔の容貌も相まって、憎めないキャラクターでした。
その奥が今回の事件。残念です。サッカー選手のみならず、仕事と家庭を両立させなければならないのは、世の常。ただ、この2つは微妙な関係で、トレードオフの関係であったり、どちらかがうまくいかないと他方に連鎖したり。体調不良でサッカーの世界を離れざるをえなかった(FC横浜のテクニカルアドバイザーを辞任)奥の無念さは、推し量るだけでも胸が痛みます。だからこそ尚更家庭に安らぎを求めようとしたのでしょう。自らの存在価値を見つけようとしたのでしょう。その過剰な気持ちが悲劇につながったのかもしれません。
写真は、送別試合でスタンドに投げ入れられた紙吹雪替わりのサックスブルーのメタルテープです。新潟に反町姫から分けて頂きました。裏に俊哉の直筆で書かれていた文字は「サッカー楽しいです‼」あのドリームチームのメンバーには、いつまでも楽しさの連鎖を紡いでいて欲しかった。

2013年6月5日水曜日

余りに予定調和の結末 ‐ 豪州戦

いずれにせよ、W杯出場決定の歴史的ゲームになるだろうとの確信はありましたので、祝賀セレモニーが終わってからの遅い帰宅になることを覚悟していました。しかし、実際には、素直に喜ぶ気になれず、試合終了後早々とスタジアムを後にしました。浦和美園駅までの約20分間の道のりは、喜びに沸くサポーターは少なく、まるで山間の沢の流れのような静かな青い帯が小刻みに揺れているのみでした。評価しにくいゲームでした。前半見事なカウンターをし掛けていた豪州も、後半はピタッと脚が止まり、完全に日本ペース。それでもゴールを決め切れない日本は、DF栗原を投入し、スコアレスドロー狙いの3バック(?)へのシステム変更。ところが、攻撃的3-4-3が染み付いているチームはサイドが前掛かりになってしまい、豪州のラッキーな先取点の遠因を作ってしまいます。最後のPKは豪州戦アウェーでの不可解なPKの埋め合わせのようなサッカーの神様の采配。結果だけみると、日本がW杯への切符を手にし、豪州も勝ち点1の積上げにより望みを繋ぐという、双方にとって最低限の目標を達成した極めて予定調和的な結果となりました。5大会連続W杯出場というのは大変な偉業であり、素直に喜ぶべきでしょうが、代表選手達が「W杯優勝」を口にしている以上、サポーターとしても、安易な妥協は出来ません。アジア最終予選突破を通過点とするならば、最終ゴールの本戦での躍進は現時点ではかなり遠いと言わざるを得ません。このままでは世界と戦えません。ザックジャパン発足時は、守備が安定し、攻撃時の選手間の連携も躍動感が溢れていました。しかし、このところ、守備は厚みに欠け、攻撃も狭いスペースの突破にこだわり過ぎている感があり、「組織は出来上がった。次は個の成長」の呪縛に囚われ、肝心の連携を失いつつあるのではないかと危惧されます。成長の過程の踊り場状態といえるかもしれませんが、ここを乗り切り、確実な成長を実現できるのか、あるいは、このまま、組織崩壊の途を辿るのかは、まさに指揮官の手腕次第というべきでしょう。トルシエ、ジーコは失敗し、南アW杯時の岡田監督のみが結果を残しました。ザッケローニは、人柄的には極めて好感を持てるのですが、今回の豪州戦でのドタバタ采配をみると若干不安なしとはしません。スコアレスドロー狙いでDF栗原を投入したのは理に適っています。ただ、ここで、3バックにしたのか、長友を1列前に出して4バックを維持したのかの指示の不徹底がありました。また、終了間際にハーフナーを投入して豪州相手に空中戦を挑んだのは全く疑問。後半明らかに足の止まった豪州には、裏を取ってスピードで挑めるFWの投入が筋。ベンチに佐藤(広島)や石川(FC東京)がいたらと思いました。コンディションの整わない本田・岡崎を先発させたのも疑問。前半は守備重視で後半に勝負する展開でも良かったのでは。チームの建直しには、監督のマネジメントの他、ピッチ上の精神的支柱、流れを変えられる存在が必要です。個人的には遠藤にその役回りを担って欲しいのですが、どうも本田が自他ともに認めるピッチ上の指揮官になりそうです。確かに、はずせば大変なバッシングの標的になりかねない最後のPK(写真)を、ボールを抱えたまま誰にも譲る気配がなかった強靭な精神力は、リーダーの資質十分。ただ、イチかバチかのど真ん中シュートには危うさを感じます。キックスピードで勝負する為にどうしても力が入り、枠をはずすリスクも高まるわけですから。結果的に本田に救われたザッケローニとしては、「チームホンダ」の刷り込みが一層強くなったと思います。今後は、更に本田への依存が強まることでしょう。本田が本戦までの1年間で冷静さとしたたかさを如何に身に着けていくかに、ザックジャパンの命運がかかっているといっても過言ではないかもしれません。