2012年8月31日金曜日

ヤングなでしこ - 日韓戦

どの世代の対戦でも、日韓戦は否が応でも燃えてしまいます。ましてや、竹島領土問題のかまびすしい中、また、五輪男子サッカーの敗戦の直後でもあり、なおさらです。この世代は、2年前のU-17W杯で優勝を争い、日本がPK戦で敗れています。その雪辱戦という意味合いもあります。そんな因縁の対決ではありますが、ヤングなでしこ(写真)は、固くなっている様子もなく、その持っている力を存分に発揮しての見事な勝利でした。個々の技術、運動量、フィジカル、戦術理解度、チームとしての組織力、どれを取っても日本の方が上で、負ける要素はありませんでした。日本の3点目、田中美南が3人に囲まれながら高木に球をつなぎ、高木がゴールラインまで切れ込んでのマイナスの折り返し、西川がDFを引きよせてつぶれ役となり、フリーの田中陽子がゴールマウスに流し込んだシーンに、ヤングなでしこの強さが凝縮されていました。
24,000人対100人は、国立競技場での日本サポーターと韓国サポーターとの人数比でした。サポーターの後押しがヤングなでしこの大きな力になったことは確かです。また、25,000人対1400人という数字もあります。これは、日本と韓国の女子サッカーの登録選手数です。日本の場合、なでしこリーグ加入チームとその下部組織が大きな受け皿となっていますが、韓国の場合、年齢があがるに従って受け皿がなくなるという悩みをかかえており、U-17からU-20への道のりで大きな差が開いてしまった原因はこの辺りにあるのでしょう。日本は、過去の陽のあたらない時代を支えてきた無数のなでしこ達の遺産を大事に育てていかねばなりません。
ところで、スタジアムの席のちょうど前の一角がナイジェリア選手団用の特別シートでした。メキシコとの延長戦をかろうじて制したナイジェリアの選手達がリンゴをかじりながら偵察の為に観戦していました。試合開始当初は、配られた日韓戦のメンバー表にメモを書き込みながら熱心に観戦していましたが、20分過ぎ位から飽きてきたのか、ペンを置いておしゃべり。そのうち、ご褒美のiPadが父兄(?)から差し入れられると試合そっちのけで騒ぎ出し、後半はジグソーパズルを始める年配のコーチ(?)も。決勝の相手がナイジェリアなら、勝てそうな気がします。
冒頭で、「因縁の日韓戦」の旨書きましたが、クリーンで気持ちのいいゲームでした。試合後は、涙を拭いながら退場していく韓国の選手達にスタンドから大きな拍手が。両国間にどのような問題があろうとも、サッカーでの対戦は代理戦争ではありませんし、ましてや、純粋な10代の少女達に余計な思惑を背負わせるべきではありません。そんな意味で、韓国の選手達に向けられた大きな拍手、そして、韓国の選手達のやや控えめではありましたが、手を振って応える仕草は、とても爽やかな印象を残してくれました。

2012年8月27日月曜日

バンビの躍動 - ヤングなでしこスイス戦

U-20女子サッカーW杯日本開催。もともとウズべキスタンで開催される予定だったのが、施設が国際基準を満たしていないとの理由でウズベキスタンが失格となり、昨年末、急遽、日本開催が決定しました。そのせいもあって、事前告知が十分に行われず、また、五輪の影にも隠れて、いまひとつ盛上りに欠けています。グループステージの会場は、軒並みガラガラ。グループステージ突破が決まる今日の第3戦も、国立競技場での第1試合ブラジル対韓国戦は、第2試合目当ての日本人サポーターを含めて5,000人足らず。両国のサポーターはそれぞれ10名程度。優勝候補同士の戦いにも拘わらず、寂しい光景でした。試合は、圧倒的にブラジルペース。しかし、猛攻を繰り返したブラジルですが、韓国の赤い壁を最後まで破ることが出来ず、逆にカウンター2発に沈み、よもやのグループステージ敗退。
ヤングなでしこがスイスと対戦する第2試合は、さすがに観客が増え、約17,000人。それでも、国立の収容人数54,000人からすると3分の1以下。空席が目立ちます。せめて、決勝の舞台は、満員になって欲しいと願っています。
ヤングなでしこは、スイスは論外としても、韓国、ブラジルと比べても、テクニック・敏捷性・判断のスピード・運動量で図抜けています。ボランチ楢本光のテクニックとパスセンスは抜群。澤は安心して引退できます。ボンバー荒川以来の横山・道上・西川の力強いFW陣。高速ウインガー田中美奈。そして、何といっても、ポスト宮間のミラクルキッカー田中陽子。左右の脚でのFKからの直接ゴールというのはギネスブックものではないでしょうか。本当にタレントだらけの楽しいチームです。クリクリとした眼を輝かせ、躍動する姿は若鹿バンビ。準々決勝の相手は、相性の悪い難敵韓国です。同じ年代では2年前のU-17女子W杯決勝でPK戦の末苦杯を飲まされています。その雪辱戦ともなる1戦。今回は、成長したバンビ達が、赤い壁を軽々と跳躍してくれることでしょう。
冒頭に観客が少ないと書きましたが、さすがにそんなコアなゲームに集まる観客だけに、みんなサッカーを良く知っていました。ツボを押さえた拍手と歓声は、明らかにA代表戦以上。心地良い観戦となりました。更には、ブラジル・韓国戦の前に旭日旗を振っていた観客が退席を命じられたり、日本・スイス戦の終了間際に酔っ払いの小競り合いがあったり、かなりディープなサッカー観戦シーンがありました。日本のサッカー文化も成熟しつつあります。写真は、国歌演奏に胸に手をあてて眼を閉じるヤングなでしこ達。よく見ると、エスコートキッズの男の子まで眼を閉じているという微笑ましい光景です。)

2012年8月19日日曜日

旅の終り - その2 U-23篇

若きSamurai Blue、U-23はメダルに届きませんでした。もともと、U-20 W杯への出場を2回連続で逃した「谷底の世代」(2009年権田・村松・永井、2011年酒井(高)・宇佐美)で、しかも、本来、絶対的エースとなるべき香川を欠き、OAも最強の補強といえないメンバーでは、ベスト4は望みうる最高の結果だったと思います。非常によくやったと評価すべきでしょう。しかし、3位決定戦で敗れた相手が、U-20 W杯への出場をアジア予選で2度とも阻まれた韓国だったのは、残念でなりません。3位決定戦の戦い方にも、苦手意識が随所に見受けられました。そして、韓国は、日本を飲んでかかっていました。この大舞台での敗戦が、この世代のライバル韓国への苦手意識を助長しないことを願うばかりです。
グループステージから準々決勝エジプト戦までは、日本の飛び道具、永井、齋藤、大津がその威力を如何なく発揮しました。世界を驚愕させたといっていいかもしれません。また、その飛び道具の射手となっていた清武は、英国の目の肥えた観客からも大きな称賛を浴びていました。エジプト戦で永井が負傷したのは、メダルを狙う上で大きな痛手でしたが、むしろ、それ以上に、日本の速攻を封じられたのが、準決勝・3位決定戦の敗因でした。メキシコ・韓国ともに試合巧者。日本の良さを消してきました。世界での経験の差が出ました。終盤は、ゲームの流れを変えられないまま、なす術なく、敗れてしまいました。2試合ともに、流れを引き寄せるべく投入された宇佐美・杉本は、見せ場を作ることも出来ませんでした。世界の壁を実感したのではないでしょうか。特に宇佐美は「ガンバ大阪の最高傑作」と称され、名門バイエルンミュンヘンに入団した逸材ですが、ベンチにも入れず試合から遠ざかっているせいか、試合勘以上に、チームでのコンビネーションを欠いていました。悔しさは判りますが、暗い表情が気になります。女子W杯の時の永里(現姓・大儀見)が重なります。彼には、技術的向上よりも人間的成長が必要ではないでしょうか。
「今、一番何がしたいですか?」五輪から帰国した選手達へのお決まりの質問ですが、多くの選手が「焼肉を食べたい」「お寿司を食べたい」と答える中で、なでしこの岩渕だけが「練習!」と一言。決勝で、GKと1対1になりながら決めきれなかったシュートが余程悔しかったのでしょう。U-23 もベスト4という十分称賛に値する結果ではありますが、選手達には最後の2連敗で世界に撥ね返された悔しさのみが残った五輪だと思います。U-23の選手全員が、岩渕と同じ気持ちを抱いたとしたら、今後の日本サッカーにとって、銅メダル以上に価値ある敗戦になるかもしれません。(写真はグループステージ第3戦ホンジュラス戦)

2012年8月17日金曜日

旅の終り その1 なでしこ篇

なでしことU-23のウェンブリーへの旅が終わりました。なでしこは、決勝での惜敗に悔しさをにじませながらも、最後は弾けるような笑顔で銀メダルを掲げてくれました(写真)。一方、U-23は、スペインに歴史的勝利をあげながら、最後は2連敗でメダルを逃すという残念なフィナーレとなり、敗北感が残ってしまいました。しかしながら、両チームともに、よくやったと思います。正直、客観的に求めうる最良の結果を達成したと言ってよいのではないでしょうか。
なでしこは、W杯優勝チームとして大会に臨みましたが、普通でさえ大きな体格差がある上に、中2日で6試合という強硬日程(W杯は中3日)では、準決勝、決勝ともなると、どうしても生命線の運動量が落ちざるをえません。決勝での米国の2得点は、普段の状態のなでしこであれば、いずれも体を寄せて防げたゴールでした。オリンピックの夏開催、サッカー競技の中2日スケジュールが変更されない限り、運動量に頼る現在の日本サッカーでは、五輪で頂点に立つのは難しいと思います。厳しい日程に加え、各チームとも世界チャンピオンの日本をよく研究していました。各国が日本のサッカーをまねて、五輪でパスサッカーを標榜してくれれば、一日の長があるなでしこに金メダルの可能性ありと期待していましたが、各国が取った戦術は、そのパスサッカー封じでした。パスの出どころである宮間、澤を徹底的に潰し、一方で、早めに守備ブロックを固めて、バイタルエリアでのパススペースを消すというものでした。攻めは、なでしこの弱点である左サイドを崩しにかかってきました。鮫島のミスを狙い、そのカバーに川澄や宮間が追われ、本来、攻撃の軸となるべき左サイドが機能しませんでした。それでも、なでしこは、したたかでした。パスサッカーに拘ることなく、佐々木監督に「闘志の守備」と言わしめた泥臭い守備で相手のシュートを間一髪阻み、そこからの速攻での堅守速攻に徹しました。W杯でみせた華麗なサッカーではありませんでしたが、メダル獲得への執念をこめた別の意味で「なでしこらしい」美しいサッカーでした。準々決勝で敗れたブラジルの監督が「今日の試合のような守備的なサッカーを続けるならば、日本は優勝チームにふさわしくない」と批判していましたが、サッカーは技を競う競技ではなく、ましてや、五輪は勝利を目指す大会であるという言葉を返したいと思います。また、美しいサッカーには様々な形があると。
議論を呼んだ南ア戦での引分け狙いは、メダルへの執念の表れでした。グループステージ2位通過であれば、同じ会場で準々決勝を戦うことが出来、準決勝の会場ウェンブリーへの移動距離も少ないという1位通過よりも圧倒的に有利な条件を考えれば、2位狙いは当然のこと。しかも、引分け狙いというのは、一歩間違えれば、敗北のリスクを負うものであり、決して簡単なことではありません。引分け狙いという戦略は、決して非難されるべきものではありません。非難されるべきは、2位通過が1位通過よりも有利な条件となるという大会運営の不合理性でしょう。ただ、佐々木監督が試合後のインタビューで引分け狙いを明言し、途中投入した川澄にシュート封印を指示したと明かしたことには違和感を感じました。指揮官として口にすべきことではないのではないかと。その後、宮間が「南ア戦で全てを背負ってくれたノリさん(佐々木監督)の思いをムダにしたくなかった」と語っています。佐々木監督は、批判の矛先を自分に向け、選手を守る為に、あえて引分け狙いを自ら明言した訳です。マネジメントのあり方を考えさせられたエピソードでした。
決勝戦敗戦直後、宮間の泣きじゃくる姿は感動的でした。あれだけ力強く、また、冷静にチームを纏めてきていたキャプテンが、涙を止めることができずに泣き崩れている姿に、如何に金メダルへの執念が強かったか、また、キャプテンとしてのプレッシャーに耐えていたのかを感じました。そして、その宮間を抱きかかえるように寄り添っていたのは、佐々木監督でも、澤でも、川澄でもなく、大儀見でした。ドイツW杯で大儀見(当時永里)はチームの戦術に馴染めず、活躍出来ませんでした。W杯準々決勝ドイツ戦では、途中交替させられ、試合後はチームが勝利し、他のメンバーが喜び合う中、ひとり不甲斐ない出来に泣きじゃくっていました。その大儀見に寄り添っていたのが宮間でした。それから1年。一匹狼だった大儀見は、チームへの献身を覚え、前線からの守備を欠かさず、おとりになる動きを繰り出すなど、サッカーの幅を広げるとともに、人間的な成長を遂げました。だからこそ、真っ先に泣き崩れる宮間を抱き起こし、宮間も泣きじゃくったまま、大儀見に身を委ねたのです。それぞれの人間的成長とお互いへの信頼感が、この1年でなでしこが身につけた最大の強みだったのではないでしょうか。それが、全員で猛攻に耐えに耐え、最後は勝利を手にし、銀メダルを獲得した今回の戦いを支えたのです。
こんなエピソードがありました。W杯の後、チームに馴染めず悩んでいた永里に、メンタルアドバイザーの大儀見氏がかけた一言「口角を上げなさい」。この言葉で永里は変わりました(姓も大儀見に)。表彰台でのなでしこ達の笑顔は格別でしたが、中でも大儀見の笑顔(写真上段右端)は一段と輝いていました。

2012年8月5日日曜日

いざ、Wembley

サッカー日本代表、男女共に準決勝進出を決めました。いよいよサッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムです。特に男子は、準々決勝の会場がオールド・トラフォード(マンチェスター・ユナイテッドのホーム)ですから、メダルに向けた夢のような滑走路です。2ゴール目を決めた吉田麻也の「(香川)真司より先ににここでゴールを決めたかった」というコメントは気が利いていました。ウェンブリー・スタジアムは1923年開場。従来、ツインタワーがシンボルでしたが、2007年に新スタジアムに改修され、現在は、スタジアム上部のアーチがシンボルとなっています。収容人数9万人はバルサのカンプ・ノウについでヨーロッパ第2位の大きさですが、屋根のついたスタジアムとしては世界最大です。サッカーの代表戦やFA杯決勝など主要なゲームにのみ使用される文字通りサッカーの聖地です。ちなみに、五輪バドミントンの会場となったアリーナは、サッカー・スタジアムに隣接しています。写真は、スタジアムの正面ゲート。手前の銅像はボビー・ムーアです。1966年イングランドW杯優勝時にキャプテンを務めた伝説的ディフェンダーです。同W杯ではMVPにも輝いています。
準々決勝、なでしこは、闘志の守備という和製カテナチオでブラジルの猛攻に耐え、一瞬の隙をついての必殺技で仕留めるという全盛期のアントニオ猪木を彷彿とさせる美しい勝利をおさめました。試合後、ブラジル代表監督は「今日のような(守備的な)プレーを続けるならば、日本は優勝候補にふさわしくない」との負け惜しみそのもののコメントを残していますが、ブラジル地元紙の「沢は機能したが、マルタは五輪で輝けなかった」との分析が正当な評価だと思います。
一方、男子のゲームは、オールド・トラフォードの目の肥えたファンを再三うならせた文句なしの快勝でした。男子チームの快進撃を支えているのが、4試合無失点の固い守備。前線からの組織だったプレスがその根幹となっていますが、吉田麻也が守備に安定感をもたらしているのは間違いありません。このまま無失点が続けば、自ずからメダルに手が届くことになりますし、その時は、ボビー・ムーアにあやかって、吉田がディフェンダーとしてMVPということでしょう(五輪では公式のMVPの選出はありません)。

2012年8月2日木曜日

ゴダィヴァ伝説 - コベントリーのブーイング

コベントリーです。ジャガーが本社を構える地方の工業都市。ベルギーの高級チョコレートのゴディバ(英語読みではゴダィヴァ)の名前とシンボルマークの由来となったゴダィヴァ夫人伝説発祥の地です。ゴダィヴァ夫人は11世紀に実在した伯爵夫人です。夫人は重税に苦しむ領民を憐れみ、重税の緩和を領主である夫に嘆願します。夫は、夫人が裸で馬に乗って町の端から端まで練り歩くことを減税の条件とします。領民達は夫人の慈悲に報いる為に、夫人が裸で馬乗りする日には家にこもって戸も窓も締め切り、夫人の裸を見ないように申し合わせます。しかし、仕立て屋のTomだけが禁を破って、夫人の一糸まとわぬ姿を覗き見してしまいます。これが、英語のPeeping Tomの語源となったということです。
ゴダィヴァ夫人の慈悲深さの伝統をひくコベントリー市民達のはずですが、日本対ホンジュラスの一戦については、かなり厳しい反応でした。試合会場は、市街地の北のはずれに位置するリコー・アリーナ。オリンピック期間中は、企業名を冠することが禁じられている為、シティ・オブ・コヴェントリー・スタジアムと呼ばれています。収容人数32,609人。平日夕刻にも拘わらず2万人を超える観客が詰めかけました。共にスペインを破った両チームの対戦。好ゲームを予想して駆けつけた地元サッカーファンの期待は、開始早々打ち砕かれました。互いに中盤でミスを繰り返し、攻め手を欠く退屈な試合展開。20分過ぎには試合に飽きてウェーブが起こる始末。清武・永井が投入され、リズムが一変した後半途中からは、日本のプレーに何度か歓声があがりましたが、終了間際の守備陣でのパス回しよる時間稼ぎには、手厳しいブーイングの嵐。技術の高いプレーへの拍手、審判の判定へのブーイングなど、さすがにサッカーを知っている観客が多くいました。
主力を休ませ、且つ、しっかりと1位通過を果たしてブラジルとの対戦は避けられるなど、関塚監督のゲームプランはぴたりと当りました。残念ながら控え組がフィットしないことが判ったのも怪我の功名。いよいよメダルに向けての今度こそ絶対に負けられない戦いが始まります。次はマンUの本拠地オールドトラフォード。再び関塚ジャパンがきらめきを取り戻し、目の肥えた観客に衝撃を与えてくれるものと信じています。

2012年8月1日水曜日

カーディフの苦悩 - なでしこ南ア戦

カーディフはロンドンから電車で約2時間、ウエールズの首都、人口30万人の地方都市です。街の中央にカーディフ城がそびえ、石造りの古い街並みが、さながら日本の城下町の落ち着いた佇まいを思い起こさせます。なでしこの試合会場は、駅から徒歩10分足らずのミレニアムスタジアム。収容人員74,500人。開閉式屋根の全天候型。ラグビーとサッカーの代表戦に使用されますが、メインはラグビーで、ラグビーの聖地として、サッカーの聖地ウェンブリーと並び称されています。素晴らしいスタジアムで、今やカーディフ城に代わる街のシンボルとなっています。
さて、なでしこ。極めて不甲斐ないゲームになってしまいました。チャンスをもらいながら、何も出来なかった丸山、岩渕、矢野などの控え組は、それ以上に悔しい思いをしていると思います。試合後の岩渕の悔しさを隠すかのようなほとんどふてくされている態度が象徴的でした。決勝までの6試合の中でこんな試合が出てきてしまうのは、やむを得ませんが、問題は、試合後の会見時の佐々木監督の発言です。インタビューの中で、佐々木監督は「ドローを狙える展開であれば、そういうことでいいと伝えた」とコメントしています。また、川澄投入時に「申し訳ないけどカットインの素晴らしいシュートはやめてくれ」と言ったと認めています。メダル獲得を考えると、2位通過は、対戦相手として米国、フランスを避けることに加え、移動せずに準々決勝に臨めるという大きなアドバンテージがあります。佐々木監督のみならずとも、2位通過狙いそのものは、指揮官として当然な選択肢です。ただ、問題はそれを公の場で口にしてしまったことです。「勝たない」という戦い方はFIFAのフェアプレーの精神に明らかに反しており、FIFAが問題視して何らかのペナルティが課される可能性があります。それ以上に、純粋にサッカーに全てを捧げているなでしこ達を、非難に晒すことになってしまいます。
佐々木監督のオープンで正直な性格には好感が持てますが、余りに不用意な発言でした。なでしこ達は、一旦は失望させてしまったカーディフの観客を、ブラジル戦、世界王者のパスサッカーで魅了することでしか、非難に答える術はありません。