2011年6月16日木曜日

「非現実的な夢想家」の逆襲

作家の村上春樹氏がスペインのカタルーニャ国際賞を授賞しました。その授賞式でのスピーチ(写真)のリンクをFacebookで色々な方から紹介頂きました。感動的且つ示唆に富んだスピーチですので、是非ご一読下さい。ブログのタイトルはスピーチのタイトル「非現実的な夢想家として」から頂いたものです。「の逆襲」というのは、何となく、村上春樹っぽくありませんか?「村上朝日堂の逆襲」ってありましたね。
http://mainichi.jp/enta/art/news/20110611k0000m040017000c.html
バルセロナで行ったサイン会でのエピソードで聴衆を沸かせた後、彼は東日本大震災につき話し始めます。「地球の自転が僅かに速まり、一日が百万分の1.8秒短くなるほどの規模の地震でした。」という表現など正に村上ワールドです。彼は、24,000人もの犠牲者が出た大災害の後にも拘らず、東京では13百万人が「普通に」生活している現状を、「無常(mujo)」という言葉で説明しています。「いつまでも続く状態=常なる状態はひとつとしてない」「この世に生まれたあらゆるものはやがて消滅し、すべてはとどまることなく変移し続ける」という「無常」の世界観が、日本人の精神性に強く焼き付けられており、これが「人が自然の流れに逆らっても所詮は無駄だ」というあきらめの世界観に繋がっていると語っています。更に、その世界観が日本人の美意識にも深く影響していると。日本人が、桜、蛍、紅葉を愛するのは、それらが一瞬にして消え去ってしまう儚さ故である。そして、日本人が次々に押し寄せる自然災害を乗り越え、ある意味では「仕方ないもの」として受け入れ、被害を集団的に克服するかたちで生き続けてきたのは確かであり、今回も復興に向けて立ち上がっていくだろうことを確信していると述べています。
問題はここからです。彼は一挙に原発問題に踏み込みます。原子力爆弾による被害を体験した唯一の国であり、核への根強い拒絶観を有していたはずの日本が再び原子力による悲劇を招いてしまった。これは、高度成長期の「効率信奉」と「技術力神話」の下で、原発を容認してきた日本国民の倫理と規範の敗北であるとしています。そして、原発反対を唱えていた人々は「非現実的な夢想家」のレッテルを貼られて斥けられてきたのだと。日本人はその修復を図っていかなければならない。被災した道路や家屋の修復はその専門の人々の仕事であるが、損なわれた倫理や規範の修復は国民全員の仕事である。以上が論旨です。村上春樹氏の決然たる脱原発宣言であり、日本国民への呼びかけです。
今回の原発事故は、40年前の技術の限界と40年間安全性の点検・向上をおざなりにしてきた怠慢の結果でもあります。現在の技術力をして原子力の制御は何処まで可能なのか。安全性は何処まで担保出来るのか。これらを謙虚な姿勢で検証するプロセスを経て、確信の持てる解答を得られないようであれば、村上春樹氏の唱える「損なわれた倫理と規範の修復」を国民全員で進めていくべきでしょう。

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