2011年5月25日水曜日

2つのJapanese Footbridge

もうひとつだけフィラデルフィア美術館ネタにお付合い下さい。
フィラデルフィア美術館にも印象派の展示区画があり、人気のスポットとなっています。その中でも私のお気に入りはモネの2つのJapanese Footbridgeです。睡蓮の池と日本の太鼓橋風の緑色の橋を描いたもので、何作品も描いているので、御存じの方も多いかと思います。印象派の展示区間の一番端の円形ホールの一角にモネが59歳の時に描いたJapanese Footbridgeが展示されており、対角線の壁の裏側にあたる奥まった部分に86歳の晩年に描かれたJapanese Footbridge(写真)が展示されています。位置的に、両方を一度に視野にいれることが出来ませんので、何度も往復して見比べるのが、フィラデルフィア美術館を訪れた際の私の習慣となっています。
59歳の時に描かれた作品は、微妙な色調に溢れ、柳の葉や睡蓮の花びらなど丹念に描き込まれた如何にも脂ののりきった時期に描かれた作品です。このJapanese Footbridgeの連作を経て、岸・柳の木・橋といったモチーフを一切削り取り、水面のみで、空と岸の風景と水中の様子までをも渾然一体として描ききるあの「睡蓮」の画風に到達します。モネは白内障の為に晩年その視力のほとんどを失ってしまいます。その中で描かれたのが写真の抽象画のような風景画です。私は、10数年前の昔よくこの美術館に通っていた頃、この絵が苦手でした。ほとばしるような執念に圧倒されるような猛々しさを感じて、この絵を直視できませんでした。しかし、知命の歳を経て、今改めて眺めてみると、むしろひとつの至高の境地といった静けささえ感じるようになりました。あのルノアールも晩年は重度のリウマチに苦しみ、車椅子に乗り、絵筆を指にくくりつけて描いたといわれています。ルノアールの晩年の滑るようなタッチで暖色を塗り重ねた作品群も味わい深いものがあります。今から黄昏の日々を想像すべくもありませんが、あるいはそこには捉われることのない安らぎの世界があるのかもしれません。ちょうど雑誌「Number」で、カズをはじめとしたサッカー界のベテラン達のインタビュー特集が組まれていました。次回は、彼らが辿りついたあまりに近似した心境について触れてみたいと思います。

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