2012年8月17日金曜日

旅の終り その1 なでしこ篇

なでしことU-23のウェンブリーへの旅が終わりました。なでしこは、決勝での惜敗に悔しさをにじませながらも、最後は弾けるような笑顔で銀メダルを掲げてくれました(写真)。一方、U-23は、スペインに歴史的勝利をあげながら、最後は2連敗でメダルを逃すという残念なフィナーレとなり、敗北感が残ってしまいました。しかしながら、両チームともに、よくやったと思います。正直、客観的に求めうる最良の結果を達成したと言ってよいのではないでしょうか。
なでしこは、W杯優勝チームとして大会に臨みましたが、普通でさえ大きな体格差がある上に、中2日で6試合という強硬日程(W杯は中3日)では、準決勝、決勝ともなると、どうしても生命線の運動量が落ちざるをえません。決勝での米国の2得点は、普段の状態のなでしこであれば、いずれも体を寄せて防げたゴールでした。オリンピックの夏開催、サッカー競技の中2日スケジュールが変更されない限り、運動量に頼る現在の日本サッカーでは、五輪で頂点に立つのは難しいと思います。厳しい日程に加え、各チームとも世界チャンピオンの日本をよく研究していました。各国が日本のサッカーをまねて、五輪でパスサッカーを標榜してくれれば、一日の長があるなでしこに金メダルの可能性ありと期待していましたが、各国が取った戦術は、そのパスサッカー封じでした。パスの出どころである宮間、澤を徹底的に潰し、一方で、早めに守備ブロックを固めて、バイタルエリアでのパススペースを消すというものでした。攻めは、なでしこの弱点である左サイドを崩しにかかってきました。鮫島のミスを狙い、そのカバーに川澄や宮間が追われ、本来、攻撃の軸となるべき左サイドが機能しませんでした。それでも、なでしこは、したたかでした。パスサッカーに拘ることなく、佐々木監督に「闘志の守備」と言わしめた泥臭い守備で相手のシュートを間一髪阻み、そこからの速攻での堅守速攻に徹しました。W杯でみせた華麗なサッカーではありませんでしたが、メダル獲得への執念をこめた別の意味で「なでしこらしい」美しいサッカーでした。準々決勝で敗れたブラジルの監督が「今日の試合のような守備的なサッカーを続けるならば、日本は優勝チームにふさわしくない」と批判していましたが、サッカーは技を競う競技ではなく、ましてや、五輪は勝利を目指す大会であるという言葉を返したいと思います。また、美しいサッカーには様々な形があると。
議論を呼んだ南ア戦での引分け狙いは、メダルへの執念の表れでした。グループステージ2位通過であれば、同じ会場で準々決勝を戦うことが出来、準決勝の会場ウェンブリーへの移動距離も少ないという1位通過よりも圧倒的に有利な条件を考えれば、2位狙いは当然のこと。しかも、引分け狙いというのは、一歩間違えれば、敗北のリスクを負うものであり、決して簡単なことではありません。引分け狙いという戦略は、決して非難されるべきものではありません。非難されるべきは、2位通過が1位通過よりも有利な条件となるという大会運営の不合理性でしょう。ただ、佐々木監督が試合後のインタビューで引分け狙いを明言し、途中投入した川澄にシュート封印を指示したと明かしたことには違和感を感じました。指揮官として口にすべきことではないのではないかと。その後、宮間が「南ア戦で全てを背負ってくれたノリさん(佐々木監督)の思いをムダにしたくなかった」と語っています。佐々木監督は、批判の矛先を自分に向け、選手を守る為に、あえて引分け狙いを自ら明言した訳です。マネジメントのあり方を考えさせられたエピソードでした。
決勝戦敗戦直後、宮間の泣きじゃくる姿は感動的でした。あれだけ力強く、また、冷静にチームを纏めてきていたキャプテンが、涙を止めることができずに泣き崩れている姿に、如何に金メダルへの執念が強かったか、また、キャプテンとしてのプレッシャーに耐えていたのかを感じました。そして、その宮間を抱きかかえるように寄り添っていたのは、佐々木監督でも、澤でも、川澄でもなく、大儀見でした。ドイツW杯で大儀見(当時永里)はチームの戦術に馴染めず、活躍出来ませんでした。W杯準々決勝ドイツ戦では、途中交替させられ、試合後はチームが勝利し、他のメンバーが喜び合う中、ひとり不甲斐ない出来に泣きじゃくっていました。その大儀見に寄り添っていたのが宮間でした。それから1年。一匹狼だった大儀見は、チームへの献身を覚え、前線からの守備を欠かさず、おとりになる動きを繰り出すなど、サッカーの幅を広げるとともに、人間的な成長を遂げました。だからこそ、真っ先に泣き崩れる宮間を抱き起こし、宮間も泣きじゃくったまま、大儀見に身を委ねたのです。それぞれの人間的成長とお互いへの信頼感が、この1年でなでしこが身につけた最大の強みだったのではないでしょうか。それが、全員で猛攻に耐えに耐え、最後は勝利を手にし、銀メダルを獲得した今回の戦いを支えたのです。
こんなエピソードがありました。W杯の後、チームに馴染めず悩んでいた永里に、メンタルアドバイザーの大儀見氏がかけた一言「口角を上げなさい」。この言葉で永里は変わりました(姓も大儀見に)。表彰台でのなでしこ達の笑顔は格別でしたが、中でも大儀見の笑顔(写真上段右端)は一段と輝いていました。

0 件のコメント: