2010年3月16日火曜日

救世主待望論 - 本田のジレンマ

CSKAモスクワ所属の本田圭佑がマスコミの注目を浴びています。「日本代表の救世主」との表現が多く、W杯本戦3ヶ月前のこの時期、本来であれば、期待と自信が横溢し、マスコミがむしろ過剰な楽観ムードを引き締める役回りを演じなければならないところ、「救世主」という一筋の光明にすがるような論調に終始しているのは、寂しい限りです。
得点力に決定的な課題を残す日本代表には、本田のゴールへの強い意識や独特の得点感覚は是非とも必要ですが、周囲がこのように過剰に持ち上げることは極めて危険だと思います。本田の自らを主張する姿勢は、かつての中田(英)と重なるところがあります。1998年フランスW杯での中田はレギュラー陣で最年少ながらも抜きん出た存在でした。中田の実力を認め、中田を活かすチーム作りを支えたのは、名波と山口(素)のボランチ陣でした。その中田も2006年ドイツ大会では、チームの精神的支柱になりえず、むしろ、チーム分裂の主要因になってしまいました。それが、中田の限界でした。今の日本代表には、ナナもモトさんもいません。ましてや、本田は、まだ「世界のナカタ」に比肩しうるレベルにはありません。そのような状況で、一般スポーツ紙のみならず、サッカージャーナリズムまでが本田救世主論を展開し、問題の本質から目をそらしてしまっていることの危うさに憤りすら覚えます。今は冷静にチーム戦略や本戦での戦術について論じ、それに合わせて代表候補選手が課題の克服を図っていくべき時期なのです。本田は魅力のある選手です。ただ、本田を活かす為には、ナナやモトさんが必要なのです。稲本にはその役回りが出来るかもしれませんが、遠藤や俊輔にそれを強いるのは酷でしょう。彼らのW杯への想いは他の選手の比ではありません。本田を俊輔と並べるにしても、シャドーストライカーとして起用するにしても、これまでのチーム作りを修正せざるを得ない選択です。それでチームを再構成できるのか、十分見極める必要があります。チームの一体感は、日本代表が他国に勝る可能性のある唯一の分野です。ドイツW杯の時のように、その優位性を欠いたままで本戦に臨む愚を、繰り返してはなりません。

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