2013年3月21日木曜日

VVVの憂鬱

フェンローは、オランダの中部、ドイツとの国境付近に位置する人口9万人の小さな町です。特に観光スポットがあるわけでもなく、日本では全く知られていなかった町でした。しかし、5年前に本田が地元のサッカークラブVVVフェンローに移籍して以来、吉田麻也、カレン・ロバート、大津と日本人プレーヤーの在籍が続き、日本でも名前だけは聞くようになり、観戦目当てに町を訪れる日本人も少なくないようです。たまたま、電車で1時間強のところにあるエルストという田舎町に缶詰めになることになり、週末を利用して観戦に行って来ました。Jリーグと同じように試合開始2時間程前にはスタジアムまでの道にサポーターの列が出来、その流れに乗っていけば、スタジアムに行けるだろうとタカをくくって駅前のレストランで軽食を取っていたところ、閑散とした道路には全く変化なし。已む無く、道を聞きながら、約20分の道のりをスタジアムに向かうものの、レプリカユニフォームなどのサポーターの姿は皆無。それどころか氷点下ギリギリ、風の影響で更に寒く感じる屋外には人影さえまばらです。しかも、スタジアムの周りにチケット売り場はなく、スタジアムショップも閉まったままでした。そのスタジアムショップが開いたのは試合開始1時間前。チケットはどこで買うのかと聞くと、「ここだ」と答えて、レジの下から座席の配置図を取り出します。どうも年間シートの会員がほとんどで、当日券を買う観客は極く少数のようです。無事チケットを購入し、とりあえず、スタジアム内に入ろうとすると、まだ開場はしていないとのこと。ようやく入場開始したのは試合開始30分ほど前でした。小さな町ですからみんなゲーム開始時間に合わせて来場するということもあるでしょうが、スタジアムに隣接して小さなダイニング・バーがあって、試合開始までここで軽食を取ったり、飲んでいたりするようです。コーヒーで暖まりたいと思いましたが、「ここは会員だけ」と断られてしまいました。スタジアムは収容人数7,500人のこじんまりしたサッカー場です。日本でいえば、大きさといいレイアウトといい、ちょうど西が丘競技場といった感じです。ピッチもかなり荒れていて、至る所で芝生がはげたり、めくれあがっており、ここではパスサッカーは難しいだろうとの印象でした。案の定、ヘラクレス(かつて平山が在籍)との試合が始まると、両チームとも取り敢えずトップにボールを当てて、こぼれ球を拾いあうという展開。技術レベル的には高校サッカー県予選レベルといったところでしょうか。しかし、ボールへの寄せの速さと当りの強さは、迫力がありました。まさに、肉弾戦の様相で、日本代表の海外組の体幹の強さはこういった戦いの中で鍛えられるんだと改めて実感しました。サポーターも実戦派の集まりという感じで、黄色と黒のマフラー(写真は大津をデザインした特別バージョンのマフラー)は目立ちましたが、日本のようなレプリカユニ集団は無く、個々人でゲームを楽しんでいる雰囲気でした。ゴール裏のヘラクレスのサポーターは30名程度。フェンローサポーターとの区切りもなく、フェンローサポーターに囲まれながらも、男性サポーター独特の低音の地鳴りのようなチャントを繰り返していました。お目当ての大津は体調不良でベンチ外。カレンは、ワントップのポジションで頑張っていましたが、再三の決定機をはずして、後半途中で交替。隣のオバちゃんが「Go!Bobby!Go!」とかなり気合を入れて応援していました。西欧人受けする風貌もあり、人気は高いようでした。試合は、ヘラクレスのカウンターの前に、あっけなく2失点。逆に最後までヘラクレスのゴールを割ることが出来ず、0‐2の完敗でした。
VVVは現在オランダ1部リーグにあたるエールディビジで18チーム中17位と低迷しています。本田がいた頃は2部優勝で1部に復帰、吉田時代は12位と健闘していたのですが、ここ2年は17位、16位とかろうじて降格を免れている状況です。本田、吉田が結構高値で売れたにも拘わらず、そのお金を有効な補強に使えなかったのが、低迷の原因となっています。22時過ぎに試合が終わって、真っ暗な住宅街を駅に急ぐ道すがら、メンバーズルームのウェイターの言葉を思い出しました。「試合が終わったら、メンバー以外にも開放しているから、また、来るといい。日本人も時々来て、一緒にお酒を飲んでいるよ。」VVVのサポーター達は「ひどいゲームだった」と愚痴をこぼしながら、夜半過ぎまでビールを飲んでいるのだろう。そう思うと、負け試合を毎週末見せられるというVVVの憂鬱もまんざら捨てたものではないのかもしれません。敗因を肴に、いつもの仲間と週末の夜酒が飲める。それが、オランダの片田舎の弱小クラブ・サポーターの実はとても幸せなサッカーの楽しみ方なのかもしれません。

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