2012年12月2日日曜日

北投温泉 - 台湾紀行本編2

台北市街から車で30分程北上したところに「新北投温泉( シンベイトウ ウェンチュエン)」があります。北投温泉の歴史は古く、1896年に最初の温泉旅館「天狗庵」が開設され、日露戦争の際には日本軍傷病兵の療養所が設置されています。日本統治時代は隆盛を極め、芸者の置屋が軒を並べ、「台湾の熱海」と呼ばれていました。戦後も温泉街として人気が高く、最近では、日本の老舗有名旅館「加賀屋」も進出しています。町の中心に位置する親水公園の中に水着で入る露天風呂があり、また、高級温泉旅館の日帰り入浴を楽しむという手もありましたが、今回は、町の銭湯ともいうべき「瀧乃湯(ロンナイタン)」(写真上)に向かいました。
1907年に開業した瀧乃湯は、築105年。建物は殆ど増改築が行われておらず、日本統治時代の面影をそのまま留めています。番台のおじさんに90元(約300円)を払って、男湯の引き戸を開けると、なんとそこはいきない浴槽。洗い場の端に踏み板が2枚敷いてあり、そこで脱衣して、お風呂に入ります。踏み板の真ん中では、小太りのおじさんが子供用のスポンジマットの上で体をペチペチ叩いています。いかにも地元の常連さん達の視線を浴びながら、浴槽にそろそろと足から入ると、予想外の熱湯。硫黄臭の強酸性のお湯はそれだけでも肌を刺すのに、まさに痛みをともなう熱さ。思わず「あち~っ」と悲鳴をあげると、ゴマ塩頭のおじいさんが、相好をくずして「アツイ、アツイ」と日本語ではやしたてます。熱い温泉では湯船の中で体を動かしてはいけないというのが鉄則ですが、ついつい手で煽ぐような仕草をしてしまいます。その度に「ほぅ、ほぅ」とゴマ塩頭が隣で揺れます。
早々に浴槽から退散し、浴場の外のベンチで火照った体を冷ましていると、浴場の敷地の片隅にひっそりと石碑(写真下)が建っているのに気がつきました。石碑には「皇太子殿下御渡渉記念」の文字が。昭和天皇が皇太子時代にこの地を訪れたことを記念し、建立されたものです。何の手入れもされておらず、ほったらかしのままですが、碑が残っていること自体が貴重です。同じ日本の統治を経験している中国や韓国では考えられないことです。尖閣諸島の領土問題でギクシャクしているとはいえ、台湾の対日感情の良さを象徴している石碑といえるかもしれません。滞在中歓待してくれた菜心のママ、そして、ドライバー役を務めてくれたママの弟さんをはじめ、本当に台湾の皆さんは暖かく接してくれました。心も体も芯から温まった台湾旅行でした。

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